シマウマは、食事中も耳を立てて常に周りを警戒しています。きっと、命を脅かされるかという恐怖心があるからでしょう。その姿に、私は作品の着想を得ました。『馬耳東風』という言葉には「人の意見を聞き流す」という意味もありますが、この作品では、彼らが余計な物音に心を脅かされず、緊張から解き放たれ、ありのままの姿でのんびり過ごせたら良いな、 そんな思いを込めてタイトルに選びました。余計な物音を聞か無いほうが、時に心は平安でいられる。 この馬に耳が無いのは、そのような意味の暗示です。
あぐらをかいて、のんびり座っているシマウマの姿を想像しました。
本公演を開催するに至った、企画・構成を担当し、私の友人でもある志田雄啓(オペラ歌手・テノール)氏のを構想を以下に引用します。
志田雄啓
【このプロジェクトは、「能楽とオペラ」のコラボレーションを元に、「日本人の美意識に基づく、新たな舞台芸術」を作り上げていこうというものです。全ての関係者(作曲、指揮、歌手、ピアノ、漆芸、制作)が、去年の6月より年間を通して能楽レッスンを受講し、日本最古の舞台芸術「能楽」の美意識を身に着けた上で、「日本人の美意識に基づく新しい舞台芸術の創造」を目指しています。
私は芸大の学生時代に能楽と出会い、今までの価値観が変わるような衝撃を受けました、私が今まで勉強してきた西洋の芸術観とは全く異なる、日本伝統の芸術観に強い衝撃を受けたからです。この企画では、参加者全員が能楽のレッスンを通して、私と同じ芸術的な衝撃を受けたうえで、日本最古の舞台芸術「能楽」を美意識の根本におき、「日本人の美意識に基づく新しい舞台芸術の創造」を行っていくというものです。西洋の文化が伝来して約150年、西洋の文化を身に着けた我々が、日本最古の舞台芸術「能楽」を通し、日本人の美意識の原点に回帰し、西洋の文化を消化し、我々独自の文化として組み入れる作業は、我々の世代が行わなければならない挑戦だと考えております。】
志田氏の舞台公演では、学生時代から10数年に渡り、面の制作を担当してきました。登場人物の心を映し出す面の制作には、自身の制作テーマと共通する魅力があるからです。
この度、能オペラの演目として取り上げられた「王女メデイア」は、エウリピデスによるギリシャ悲劇の一つで、物語として非常に激しい内容を持ちます。夫に裏切られ国を追われる身となったメデイアが、復習のため苦悩の末に我が子を殺すに至るという内容です。私は本公演で、王女メデイアと王女メデイアの亡霊の2面を制作しましたが、運命に翻弄されるメデイアの心の葛藤を、如何に能面として表現できるか。また、単なる能面に留まらず、その美意識を生かしながらもどこまで造形的な創造をすることができるか。これらを私の能面の制作テーマとしました。
漆で作った能面、私なりの挑戦の結果です。